DETAIL
ジョルジュ・ルオー
《ピエロ》
アクアチント
1935年
30.8×20.8cm
版上サイン
《流れる星のサーカス》
限定250部
額・黄袋・箱付き
本作品は、20世紀最大の版画家と評されるジョルジュ・ルオーが1935年に制作したオリジナル版画集《流れる星のサーカス》(Cirque de l’étoile filante)の一点です。ルオーは20世紀前半のフランス美術を代表する存在であり、独自の強い輪郭線と深い精神性を帯びた作風で知られています。本作でもその特徴が顕著に表れています。
サーカスとピエロの主題
ルオーにとってサーカスは、単なる娯楽の世界ではなく、人生そのものを象徴する重要なモチーフでした。《流れる星のサーカス》は、彼が人間存在の喜びや哀しみ、孤独や儚さを寓話的に表現した代表的な版画シリーズです。この《ピエロ》では、道化師であるピエロの姿が正面からではなくやや横向きに捉えられ、瞳は半ば閉じられ、どこか内省的な表情を見せています。楽しげな仮装をしながらも、その顔には哀愁と孤独感が漂い、ルオーが抱く人間という存在への深い洞察を読み取ることができます。
色彩と造形
本作の特徴のひとつは、力強い黒い輪郭線と、大胆な色彩の対比です。青と緑の背景に囲まれた白い衣装、そして胸元の赤褐色のボタンという単純化された構成は、版画でありながら油彩画にも通じる重厚な印象を与えます。また、アクアチントの技法を用いることで、滑らかな濃淡と柔らかな質感が実現され、ピエロの存在感をより際立たせています。
《流れる星のサーカス》における位置づけ
《流れる星のサーカス》は、限定250部で刊行された豪華版画集で、サーカス芸人、道化師、旅芸人などを題材とした17点のオリジナルアクアチントから構成されています。ルオーはこのシリーズを通して、人間の生と死、名誉と孤独、笑いと涙といった対比を象徴的に描き出しました。
その中でも《ピエロ》は、サーカスという華やかな舞台の裏側に潜む、芸人たちの孤独や哀愁を象徴する重要な一点といえます。
ジョルジュ・ルオー Georges ROUAULT (1871-1958)
1871年パリに生まれる。14歳でステンドグラス職人や修復作家として修業を始めた。ステンドグラス職人時代から、すでにのちのルオーの特徴である重黒い輪郭線や真っ赤な色彩が見られる。1891年にパリのエコール・デ・ボザールに入学し、ギュスターヴ・モローのもとで学ぶ。1895年から主要な展示に参加し始める。1905年のサロン・ドートンヌ展に他のフォービスムの作家たちと参加。フォーヴィスム・グループにおいてマティスは理論的な側面を作品に反映していたが、ルオーはもっと本能的で自発的な作風だった。20世紀最大の銅版画家と評されるルオー。その生涯において残された版画は365点。同時代の他作家たちと比べても決して多作とは言えないが、1点たりとも手抜きのない作品制作にかける姿勢、情熱は他を圧倒する。