モーリス・ユトリロ
《リヴォリ通り、パヴィヨン・ド・マルサン》

リトグラフ
1955年
32×23.5cm
《パリ・キャピタル》より
限定197部中、右下にリマーク入りの25部
版上サイン

額・黄袋・箱付き

《リヴォリ通り、パヴィヨン・ド・マルサン（Rue de Rivoli, Pavillon de Marsan）》は、モーリス・ユトリロ（Maurice Utrillo, 1883-1955）が晩年に手がけた挿画本 《パリ・キャピタル（Paris Capitale）》 に収録されたオリジナルリトグラフ10点の一枚です。限定197部で制作され、そのうち右下にリマーク付きの25部は、特別仕様として非常に希少価値が高いものとなっています。

制作背景

リヴォリ通りは、パリ1区を走る歴史的な大通りで、ルーヴル美術館をはじめとする数々の名所に隣接しています。本作で描かれているパヴィヨン・ド・マルサンは、ルーヴル宮殿の一部で、現在は装飾芸術美術館のコレクションを収蔵する建物として知られています。ユトリロは、モンマルトルの静かな街角を多く描いた画家として知られますが、本作ではパリ中心部の格式ある都市景観を題材とし、より壮麗で洗練されたパリの姿を捉えています。

構図と表現

• 画面中央のパヴィヨン・ド・マルサン
堂々とした建築を正面から描き、その奥行きを強調することで都市的なスケール感を演出しています。
• 広場と並木道の配置
手前に広がる明るい広場と右側の緑豊かな並木が、建物の重厚さと対比し、画面に開放感をもたらしています。
• 人物表現
道を行き交う人々が小さく配され、都会的な活気と日常感を伝えています。
• 色彩
柔らかなグレーやベージュを基調としつつ、緑の並木と人物の服装に差し色を加えることで、軽やかで親しみやすい雰囲気を表現しています。

技法と特徴

• オリジナルリトグラフ
ユトリロ自身が石版に描き、油彩の質感を意識しつつも、版画ならではの柔らかい発色を実現しています。
• リマーク付き25部
右下にはリマークとして小さな通りのスケッチが添えられ、特別な価値を持つ仕様となっています。
• 版上サイン
下部にはユトリロの版上サインが入っており、作品の真正性を保証しています。

芸術的意義

《リヴォリ通り、パヴィヨン・ド・マルサン》は、ユトリロがモンマルトルを離れ、パリ中心部の象徴的建築と都市景観を描いた稀少な作品です。重厚な建築と柔らかな街路樹、人々の日常を同じ画面に収めることで、パリという都市の多層的な魅力を表現しています。《パリ・キャピタル》の中でも、建築的価値と都市景観の美しさを両立させた一枚として高く評価される作品です。

モーリス・ユトリロ Maurice UTRILLO (1883-1955)

パリ・モンマルトル生まれ。母は画家のシュザンヌ・ヴァラドン。21歳のとき精神疾患を患い、母の勧めで絵を描き始め、独学でモンマルトルの風景を描くようになる。シスレーやピサロら印象派から影響を受けた。1910年から始まる『白の時代』に代表される作品で注目を集め、1920年頃には国際的評価を確立。1928年レジオン・ドヌール勲章を受章。アルコール依存症や精神疾患に悩まされつつも制作を続け、後年は窓からの風景や記憶をもとに描いた。