DETAIL
サルヴァドール・ダリ
《ユウスゲと怒る象》
ヘリオグラヴュール・ドライポイント
1972年
58.5×42cm
《シュルレアリスティックな花》より
限定350部
直筆サイン
額・黄袋・箱付き
本作《ユウスゲと怒る象》は、サルヴァドール・ダリが1972年に発表した版画集 《シュルレアリスティックな花(Les Fleurs Surréalistes)》 の一枚で、ヘリオグラヴュールを基盤にドライポイントで加筆した作品です。ダリは現実の植物であるユウスゲ(夕菅)をモチーフにしながら、象という異世界的な動物の姿を重ね合わせ、幻想と現実を交錯させた独自のイメージを展開しています。
表現と構図
画面中央には、鮮やかなオレンジ色のユウスゲの花が大きく咲き、その花弁は力強い生命力を象徴しています。しかし花の茎はそのまま象の胴体や脚部へと変形し、植物と動物が一体化した超現実的な姿を作り出しています。左上にうっすらと描かれた象のデッサンのような線描は、現実世界と空想世界をつなぐ「設計図」のような役割を果たし、具象と抽象、可視と不可視の境界を曖昧にしています。
象徴と意味
• ユウスゲ:夜に咲き始める花で、一日の短さや生命の儚さを象徴する存在。
• 象:ダリ作品に頻出するモチーフで、欲望・強さ・権威を象徴しますが、本作では「怒り」の形相をまとい、野生的な力を暗示しています。
• 融合するモチーフ:ダリは植物と動物を結びつけることで、自然界の根源的なエネルギーや生命の循環を表現し、現実を超越した異世界のヴィジョンを提示しています。
技法と質感
• ヘリオグラヴュールにより、花弁や象の体毛など繊細な質感を再現。
• その上からドライポイントでダリ自身が加筆することで、線に独特の躍動感と即興性が生まれています。
• 印刷と手作業の融合により、幻想的で立体感のある画面構成を実現しています。
作品の位置づけ
《ユウスゲと怒る象》は、《シュルレアリスティックな花》シリーズの中でも特に強い動物的エネルギーを感じさせる作品です。植物の静的な美と、象が象徴する原始的な力が衝突することで、ダリ独自の「生命の二面性」が鮮やかに表現されています。
サルヴァドール・ダリ Salvador Dalí (1904-1989)
スペイン・カタルーニャ地方フィゲラス生まれる。バルセロナ美術学校で学んだ後、パリでシュルレアリストたちと交流し、幻想的で夢幻的な独自のスタイルを確立した。1931年に発表した代表作《記憶の固執》では、溶ける時計などのモチーフを通じ、無意識や時間の相対性を表現。フロイトの精神分析に影響を受けた作品で知られる。1940年代にはアメリカへ渡り、映画・舞台美術・彫刻など多方面で活躍。1960年代以降は宗教的テーマにも取り組んだ。1989年にフィゲラスで死去。ダリの革新的な表現は、シュルレアリスムのみならず20世紀美術全体に大きな影響を与え続けている。