DETAIL
ジョルジュ・ルオー
《キリストと貧者たち》
アクアチント
1935年
29.8×20.4cm
《受難》より
直筆サイン
限定245部
額・黄袋・箱付き
制作背景
ルオーの代表的版画集《受難》は、版元アンブロワーズ・ヴォラールの依頼によって1910年代に構想されましたが、完成までには20年以上の歳月を要しました。本作はその中の一点で、社会的に虐げられた人々と寄り添うキリストを主題としています。激動の第一次世界大戦後、苦しむ人々に寄り添う芸術を志したルオーの精神が色濃く反映されております。
技法と制作
刷りは名工ロジェ・ラクリエールによって手がけられ、ルオーが求めた重厚なマチエール感を版画で再現するために、シュガー・アクアティントや複数の腐蝕技法が駆使されています。絵画的な筆触のニュアンスが残され、版画でありながら油彩に近い深い発色と質感が実現されています。
作品の特徴
黒の太い輪郭で区切られた人物や建物はステンドグラスを想起させ、赤や青、黄といった強い色彩が象徴性を高めています。中央には貧者に目を向けるキリストの姿があり、その周囲に集う人々の哀しげな表情が浮かび上がっています。都市の背景と宗教的場面が重なり合い、同時代の社会性と普遍的な宗教テーマが結びついています。
宗教的意味
本作に描かれたキリストは、権威や教会の象徴としてではなく、苦悩する人々に寄り添う存在として表されています。ルオーは人間の苦しみや罪を直視しながらも、そこに救済と希望の光を見出そうとしました。キリストと貧者を同じ画面に配置することで、信仰が持つ慰めと人間性への深い理解が強調されています。
コレクション的価値
《受難》はルオーの版画制作の頂点に位置づけられる連作であり、20世紀宗教美術における金字塔とされています。《キリストと貧者たち》はその中でも代表的な場面として知られ、宗教性と人間性を結びつけたルオーの芸術思想を如実に示しています。直筆サイン入りで保存状態の良い作品は、コレクターや研究者にとって極めて重要な意義を持ち、芸術的・歴史的価値の双方において高い評価を受けています。
ジョルジュ・ルオー Georges ROUAULT (1871-1958)
1871年パリに生まれる。14歳でステンドグラス職人や修復作家として修業を始めた。ステンドグラス職人時代から、すでにのちのルオーの特徴である重黒い輪郭線や真っ赤な色彩が見られる。1891年にパリのエコール・デ・ボザールに入学し、ギュスターヴ・モローのもとで学ぶ。1895年から主要な展示に参加し始める。1905年のサロン・ドートンヌ展に他のフォービスムの作家たちと参加。フォーヴィスム・グループにおいてマティスは理論的な側面を作品に反映していたが、ルオーはもっと本能的で自発的な作風だった。20世紀最大の銅版画家と評されるルオー。その生涯において残された版画は365点。同時代の他作家たちと比べても決して多作とは言えないが、1点たりとも手抜きのない作品制作にかける姿勢、情熱は他を圧倒する。