モーリス・ユトリロ
《リムール教会》
アクアチント
1924年
49.6×28cm
ジャック・ヴィヨン版
限定200部
直筆サイン
本作品《リムール教会》は1924年に制作されたアクアチントで、200部限定で刷られた作品です。モンマルトルの画家として知られるユトリロは、生涯を通じて数多くの教会を描いており、それは彼にとって精神的支柱であると同時に、画家としての創作の源泉でもありました。本作は、彼がフランス芸術の名誉であるレジオン・ド・ヌール勲章を受章する以前に手掛けたものであり、若き日の純粋な眼差しが込められています。
様式と表現
重厚な建築を正面からとらえた構図は、ユトリロ特有の静謐さを湛えています。柔らかなアクアチントの技法が、建物の陰影や空の広がりを淡く表現し、どこか素朴で祈りに満ちた雰囲気を漂わせています。サクレ・クール大聖堂やノートル・ダムといった華やかな名所とは異なり、この作品では無名の地方教会を題材に選び、その場に息づく人々の営みや土地の記憶が反映されています。
技法と制作協力
この版画は、当時活躍していた画家ジャック・ヴィヨンの手によって版に起こされ、極めて精緻な仕上がりとなっています。また、本作の原版はルーヴル美術館に永久保存されており、芸術史的にも重要な位置を占めています。
コレクション的価値
ユトリロは生涯でおよそ100点ほどしか版画作品を残しておらず、その大半が晩年に集中しています。そのため、本作のような比較的早い時期に制作された版画は極めて希少であり、収集家にとって特別な価値を持っています。入手困難な作品であると同時に、ユトリロ芸術の本質を理解する上で欠かせない一枚と言えるでしょう。
モーリス・ユトリロ Maurice UTRILLO (1883-1955)
パリ・モンマルトル生まれ。母は画家のシュザンヌ・ヴァラドン。21歳のとき精神疾患を患い、母の勧めで絵を描き始め、独学でモンマルトルの風景を描くようになる。シスレーやピサロら印象派から影響を受けた。1910年から始まる『白の時代』に代表される作品で注目を集め、1920年頃には国際的評価を確立。1928年レジオン・ドヌール勲章を受章。アルコール依存症や精神疾患に悩まされつつも制作を続け、後年は窓からの風景や記憶をもとに描いた。