ル・コルビュジエ
《C肉体.1》
リトグラフ
1955年
42×32cm
《直角の詩》より
限定250部
作品概要
本作《C 肉体.1》は、ル・コルビュジエが1955年に制作した詩画集《直角の詩(Le Poème de l’Angle Droit)》 に収められたリトグラフ作品の一つです。
全7章(A〜G)から成る本詩画集のうち、本作はC章「Chair(シャール/肉体)」に属します。
「C=Chair(肉体)」という主題
C章の主題である Chair は、単なる人体表現ではなく、精神(Esprit)や理性(Raison)に対置される「生身の肉体」を意味します。
それは測定や比例によって完全に把握できる存在ではなく、痛み、欲望、衝動、脆さといった、人間の根源的な感覚を内包した存在です。
コルビュジエはこの章において、建築的秩序の前提となる「生きている人間そのもの」を見つめ直しています。
抽象的形態に込められた身体感覚
本作には、明確な人体の輪郭は描かれていません。しかし、荒々しい線、厚く塗られた色面、分断された構成によって、見る者は自然と肉体的な重さや緊張感を感じ取ります。
これは「身体を描く」のではなく、身体がもつ感覚や存在感を抽象的に可視化する試みといえます。理性では整理できない肉体の感覚が、画面全体に滲み出ています。
色彩と構成の意味
オレンジ、緑、黒、白といった色彩は、象徴的かつ感覚的に配置されています。それらは自然、血肉、影、空間といった要素を想起させ、肉体が世界と接触する場面を暗示します。
直線と曲線が交錯する構成は、秩序と混沌、理性と感覚のせめぎ合いを象徴しており、C章が《直角の詩》全体の中でも特に人間的で不安定な章であることを示しています。
《直角の詩》全体における位置づけ
《直角の詩》は、最終章G「道具(Outils)」や象徴的なモチーフ「開いた手」へと向かう精神的な構造を持っています。
その中でC章は、理性へ至る前の、人間の原点としての肉体を提示する重要な章です。本作《C 肉体.1》は、その思想を最も率直かつ象徴的に表した一枚といえます。
本作の意義
《C 肉体.1》は、建築家ル・コルビュジエが単なる機能主義者ではなく、人間の存在そのものを深く思索していた思想家であったことを示す作品です。
理性や直角による秩序は、肉体という不確かな存在の上にこそ成立する。その前提を、視覚詩として静かに、しかし力強く語りかける一作です。