猫十態
藤田 嗣治《猫十態》
1929年刊行
藤田のアクアチント10点
アポロ社刊
藤田 嗣治(レオナール・フジタ)が1929年に制作した《猫十態》は、「猫の画家」と称される藤田の芸術的特質が凝縮された代表作のひとつです。藤田はパリで名声を博した1920年代以降、女性像とともに“猫”を生涯にわたり描き続けました。猫は彼にとって身近なモデルであり、芸術の対象であり、さらには精神的な安らぎでもありました。アトリエには常時十数匹の猫が暮らし、藤田は毎日その動きを観察し続けたといわれます。《猫十態》はその長年の観察と愛情を、最も純粋な「線の芸術」として結実させたシリーズです。
藤田芸術の核心「白と黒」の美学が十枚に凝縮
藤田が《乳白色の肌》で知られる油彩作品とは異なり、《猫十態》は墨線(インクライン)の表現が主体です。
白い紙の余白を大胆に生かし、最小限の線と淡い彩色だけで猫の表情・性質・動きを描き切るその手腕は、もはや“写生の域”を超えて“象徴の美”と呼ぶべき洗練を見せています。
• ひと筆の強弱で毛並みの柔らかさを表現
• 抜きの線で猫の身体のしなやかさを示す
• 点のリズムで動き・緊張感を与える
• 彩色はわずかに留め、形の印象を引き立てる
この軽やかさと鋭さを併せ持つ線描は、日本画の筆遣いとパリのモダニズムを融合させた藤田独自のスタイルであり、世界中の美術館や研究者が“唯一無二”と評価する理由でもあります。
十枚の猫が描き出す「性格」「感情」「リズム」
《猫十態》の魅力は、「十匹の猫をただ描いた作品」ではなく、
“猫という生き物の十の本質”を描き分けた連作である点にあります。
以下は、作品全体の構造が評価される理由です:
● 1. 遊びに夢中になる子猫の無邪気さ
小刻みな線や跳ねるような筆致で、子猫特有の軽いリズムを表現。
● 2. 身体を大きく伸ばすリラックスした姿
しなやかな曲線が身体の柔軟性を伝え、藤田の熟練した観察力が際立つ。
● 3. 夜目の鋭さを感じさせる横顔
ミステリアスな印象を与える陰影と細い線が、猫の静寂と警戒心を描く。
● 4. 細やかな毛づくろいの所作
猫らしい習性を繊細な筆運びでとらえ、優雅さが漂う。
● 5. 警戒して背を丸める体勢
緊張感のある線の密度で“野性”を表現。藤田の動物スケッチの精度が際立つ。
● 6. 眠りに落ちる安らぎの表情
柔らかな曲線と静かな構図が“幸福”を象徴する。
● 7. 獲物を見据える集中力
一点を見る鋭い眼差しをわずかな筆線で表現し、生命の躍動を感じさせる。
● 8. じゃれ合う猫同士の距離感
複数の線のリズムによって関係性と動きが生まれ、構成力の高さが際立つ。
● 9. 威厳あるポーズをとる大人の猫
造形的な美しさと落ち着いた表情が、藤田の猫への敬意を感じさせる。
● 10. 人間味さえ帯びた表情の猫
藤田がよく口にした「猫ほど人に近い動物はいない」という言葉を体現した一枚。連作として見ることで、猫の動き、気分、感情、生命力がまるで“詩”のように連続して立ち上がります。
藤田“猫作品”の中でも特別に評価される理由
藤田は生涯で数多くの猫を描きましたが、《猫十態》は以下の点で特別です。
◎ 最も純粋に「猫そのもの」を追求した作品集
女性像と絡めた作品が多い中、猫のみを主題にした連作は非常に珍しい。
◎ 線描の技術が最高潮に達した時期の制作
1930年代の藤田は油彩でも線描が冴え渡っており、その美学が挿画本に最もよく反映されている。
◎ コレクション性が高く、国際的にも需要が安定
国内外の藤田展でも展示される機会が多く、評価が揺らぎにくい。
まとめ:藤田芸術の“精髄”が詰まった稀少な作品集
《猫十態》は、藤田嗣治という芸術家の本質——観察の鋭さ、線の美、ユーモア、そして猫への愛情が最も純粋な形で表れた作品です。シンプルでありながら深い味わいを持ち、飾る場所を選ばず、長く愛される作品としてコレクターから非常に人気があります。
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4,180,000円(税380,000円)
眠る親子猫。藤田嗣治の温もりに満ちた愛情、柔らかな陰影が表情豊かに描かれたエッチング・アクアチント作品。限定100部。