藤田 嗣治
《眠る親子猫》
エッチング・アクアチント
1929年
28.5×35.2cm
《猫十態》より
直筆サイン
限定100部
藤田嗣治が1920年代後半に制作した挿画集《猫十態》は、“猫の画家”としての藤田の魅力を端的に伝える代表的シリーズです。その中でも《眠る親子猫》は、シリーズ全体の中でも最も温かみに満ちた作品として高い人気を誇ります。
藤田芸術の核心にある「猫」への深い愛情
藤田はパリ時代、常に猫と共に暮らし、日常の中で彼らの動き・表情・気分まで観察していました。猫は藤田にとって特別な存在であり、彼はその愛情を繊細な表現へ昇華しています。本作に描かれるのは、母猫と子猫が寄り添い、互いの体温を感じながら眠る姿。藤田が間近で見つめた“いのちの親密な時間”が静かに描きとられています。観る者を包み込むような穏やかさがあり、ただ可愛らしいだけではなく、深い慈愛の感情を喚起する作品です。
柔らかな陰影が生み出す「やさしい存在感」
本作はアクアチントの特性によって、柔らかな陰影と豊かな階調が美しく表現されています。
毛並みの模様、身体の丸み、光の当たり方の差までも精密に捉えられており、猫たちの柔らかい体温が伝わってくるようです。特に、母猫の大きな体が子猫を包み込む部分のあたたかなグラデーションは、藤田が猫に寄せた慈しみの心を象徴しています。また、線そのものは多すぎず少なすぎず、適度な量で配置され、“輪郭線が呼吸するような自然さ”、“必要最小限で最大の情感を伝える藤田独特の筆致”が生きています。
《猫十態》における中心的作品としての評価
《猫十態》は猫のさまざまな姿をユーモラスかつ愛情深く描いたシリーズで、藤田の人気ジャンルである“猫作品”の中でも特に評価の高い挿画集です。
その中で《眠る親子猫》は、
• 親子という普遍的テーマ
• 作品全体を包む静けさ
• 藤田らしい優しさの結晶
として、コレクション性の高い1点とされています。
限定100部の希少性
1920年代の藤田の版画作品は、現存数が限られ、状態良好なものは特に貴重です。《眠る親子猫》は限定100部という少ない制作数で、世界的に流通量が少なく、藤田作品の中でも入手難度の高いシリーズのひとつです。猫を愛した藤田の世界観を象徴する点、人気の高いモチーフである点から、国内外のコレクターの関心は非常に高いものがあります。
藤田の「やさしさ」を最も美しい形で示す作品
《眠る親子猫》は、藤田嗣治が猫へ向けた愛情、そして生命への深いまなざしが静かな詩情として結実した作品です。
• 親子の温もりを描いた情感豊かなモチーフ
• アクアチントによる柔らかな陰影と奥行き
• 《猫十態》の中でも特に人気の高い一枚
• 限定100部の希少性
これらすべてが揃った、非常に美しい藤田作品といえます。
藤田 嗣治 Léonard FOUJITA (1886-1968)
1886年現在の東京都新宿区新小川町の陸軍軍医の家に生まれる。1910年東京美術学校西洋画科卒業。当時主流であった明るい外光派風の洋画にあきたらず、1913年渡仏。パリのモンパルナスでピカソやヴァン・ドンゲン、モディリアーニらエコール・ド・パリの画家たちと交流する。彼らに刺激され独自のスタイルを追究し、面相筆と墨で細い輪郭線を引いた裸婦像は、「素晴らしい白い下地(grand fond blanc)」「乳白色の肌」と呼ばれ絶賛される。1955年にフランス国籍を取得。1957年フランス政府からレジオン・ドヌール勲章シュバリエ章を受章。1959年ランスの大聖堂でカトリックの洗礼を受ける。最晩年には、ランスに感謝を示したいと礼拝堂「シャぺル・ノートル=ダム・ド・ラ・ペ(フジタ礼拝堂)」の設計と内装デザインを行った。1968年1月29日チューリヒにて死去、遺体はフジタ礼拝堂に埋葬された。日本政府より勲一等瑞宝章を没後追贈される。