マルク・シャガール
《緑色のエッフェル塔》
リトグラフ
1957年
23×19.8cm
《ジャック・ラセーニュによる「シャガール」》より
限定6000部
制作背景 ― パリを象徴するモチーフとしてのエッフェル塔
本作《緑色のエッフェル塔》は、1957年に刊行された美術史家ジャック・ラセーニュによるシャガール論のために制作されたリトグラフ作品です。
この挿画シリーズは、シャガールの人生と芸術を象徴的に示すイメージを集めたもので、特定の物語を描くというより、彼の内的世界や記憶の断片を視覚化することを目的としています。
モチーフ ― エッフェル塔と愛のイメージ
画面下部に描かれた緑色のエッフェル塔は、シャガールにとって「パリ」という都市そのものを象徴する存在です。
亡命や移住を繰り返したシャガールにとって、パリは芸術家としての出発点であり、自由と創造の記憶が重なる特別な場所でした。
画面上部には、寄り添うような人物像や顔のモチーフが浮かび上がり、都市の風景と個人的な感情が同時に描かれています。
エッフェル塔は単なる建築物ではなく、愛、記憶、精神的な帰属意識を支える象徴として機能しています。
色彩 ― 赤と緑が生む感情の対比
背景を覆う赤やピンクの色面は、情熱や高揚感、内面の熱を想起させる一方で、エッフェル塔の緑は静けさや安定感をもたらします。
この色彩の対比によって、感情の揺らぎと都市の存在感が同時に表現され、画面に独特の緊張感と詩情が生まれています。
表現 ― 線と色面による象徴的構成
本作では、細密な描写よりも、線と色面の配置によってイメージが構成されています。
輪郭線は省略的でありながら、人物や塔の存在を的確に捉えており、点線や擦れた表現が、記憶や夢の曖昧さを感じさせます。
リトグラフ特有の柔らかな質感が、感情の余韻を画面に残しています。
シャガール芸術における位置づけ
《緑色のエッフェル塔》は、シャガールが繰り返し描いた「パリ」「恋人」「都市と感情の融合」という主題を、簡潔かつ象徴的に示した作品です。
同じラセーニュ版に含まれる《梯子》《灰色の恋人たち》《青い魚》などと共通し、
現実の風景と内面世界が区別なく重なり合う、シャガール芸術の本質を見ることができます。
コレクションとしての魅力
限定6000部と比較的多く制作された作品ではありますが、
エッフェル塔という分かりやすいモチーフと、1950年代シャガール特有の抒情的表現が融合した一作として評価が高く、
ラセーニュ版シリーズの中でも、都市と個人の記憶を象徴する印象的な作品です。