マルク・シャガール
《ヨセフ族》
リトグラフ
1962年
30×22.5cm
《エルサレム・ウインドウ》より
限定5000部
作品の主題 ― 試練を越えて祝福を得たヨセフ族
《ヨセフ族》は、1962年にマルク・シャガールが《エルサレム・ウインドウ》のために制作した十二部族連作の一作です。
旧約聖書におけるヨセフは、兄たちに妬まれ、奴隷として売られながらも、知恵と信仰によって困難を乗り越え、最終的には大きな祝福と繁栄を得た人物として描かれています。
ヨセフ族はその物語性ゆえに、「忍耐」「再生」「豊穣」を象徴する部族とされており、シャガールはその本質を非常に豊かな象徴表現で描き出しています。
黄金色の画面 ― 豊穣と神の恵み
本作の画面を支配するのは、深く温かみのある黄金色です。
この色彩は、ヨセフ族に与えられた祝福の大きさ、そして試練の先に待つ実りある未来を象徴しています。
シャガールにとって黄色や金色は、単なる装飾ではなく、神の存在や恩寵を示す色でもあり、本作では画面全体が祝福そのものに包まれているかのような印象を与えます。
葡萄と樹木 ― 繁栄と実りの象徴
画面各所に描かれた葡萄の房や果実をつけた樹木は、ヨセフ族の繁栄と豊穣を象徴しています。
特に葡萄は、旧約聖書において祝福と約束の地を示す重要なモチーフであり、ヨセフの物語が単なる個人の成功ではなく、民族全体の未来につながるものであることを示唆しています。
豊かに実る果実は、忍耐の末に得られる報いを視覚的に語っています。
動物たち ― 平和と調和の世界
画面下部から右側にかけて描かれた動物たちは、争いのない平和な世界を象徴しています。
捕食や緊張の気配はなく、すべての生き物が同じ空間に共存している様子は、ヨセフ族の祝福が周囲にも波及し、秩序と調和をもたらすことを示しています。
これは《エルサレム・ウインドウ》全体に通底する、シャガールの理想的な世界観の表れでもあります。
鳥の存在 ― 神の導きと霊的次元
画面上部に描かれた鳥は、神の導き、そしてヨセフの夢見の力を想起させます。
ヨセフは夢を解き明かす者として聖書に登場しますが、鳥の飛翔はその霊的な視野と、天上からの啓示を象徴する存在として読み取ることができます。
アーチ型構図 ― 祝福の器としての世界
本作もまた、アーチ型の構図を採用しています。
この形は窓であると同時に、祝福を受け止める器のようでもあり、ヨセフ族に注がれる神の恵みを視覚的に包み込んでいます。
アーチの内側に展開される豊穣の世界は、試練を経た先に開かれる約束の地そのものと言えるでしょう。
本作の意義 ― 試練と繁栄を同時に描いた一作
《ヨセフ族》は、《エルサレム・ウインドウ》連作の中でも特に物語性と祝福性が強く感じられる作品です。
苦難を否定するのではなく、それを経てこそ得られる恵みの深さを、色彩と象徴によって静かに、しかし力強く語っています。
限定5000部のリトグラフでありながら、ステンドグラス原画の精神性と、シャガールの信仰と人生観が凝縮された本作は、連作全体を締めくくるにふさわしい重みを備えた一作と言えるでしょう。