DETAIL
ジョルジュ・ルオー
《十字架上のキリスト》
エッチング・アクアチント
1936年
64.8×48.7cm
版上サイン
限定175部
額・黄袋・箱付き
本作品《十字架上のキリスト》は、ジョルジュ・ルオーが1936年に制作したエッチング・アクアチントによるオリジナル版画で、彼の宗教的世界観を最も象徴的に示す重要な作品のひとつです。深い精神性と鮮烈な色彩、そして力強い輪郭線が融合した本作は、ルオーが生涯をかけて追い求めた「人間の魂の救済」を強く訴えかけます。
深い信仰心に根ざしたテーマ
ルオーはカトリック信仰に篤く、その宗教観は多くの作品に濃厚に反映されています。本作では、十字架にかけられたキリストの姿を中心に、左には祈りを捧げるマグダラのマリア、右には聖母マリアと聖ヨハネが寄り添う構図が描かれています。キリストの首はやや傾き、苦しみの中にも慈悲深い表情を浮かべており、ルオーが捉えた「人類への無償の愛」が静かに伝わってきます。人々の悲嘆の表情と、そこに射す救いの光の対比は、ルオーならではの宗教的ビジョンを体現しています。
強靭な線と鮮烈な色彩
ルオーの作品の特徴である太く力強い黒い輪郭線は、ここでも荘厳な存在感を放っています。十字架を囲む背景には、青・赤・黄といった鮮やかな色彩が重ねられ、救いの光と人間の苦悩を同時に表現しています。エッチングとアクアチントを組み合わせた技法により、深みのある陰影と柔らかな色調が生まれ、版画でありながら絵画的な豊かさを持つ仕上がりとなっています。ルオー自身の手によるオリジナル版画であることも、本作の芸術的価値をいっそう高めています。
絶望と希望のはざまで
ルオーはしばしば、現世の苦悩と魂の救済という二つの主題を対比的に描きました。本作でも、悲嘆に暮れる群像と、それを超越するキリストの静謐な存在が鮮やかに対照を成しています。背景に広がる夕空の色彩は、沈みゆく太陽と新たな光の兆しを象徴し、人類の罪と贖いの物語を静かに語りかけます。ここには、ルオーが抱き続けた「絶望の中に宿る希望」という信念が凝縮されているといえるでしょう。
ジョルジュ・ルオー Georges ROUAULT (1871-1958)
1871年パリに生まれる。14歳でステンドグラス職人や修復作家として修業を始めた。ステンドグラス職人時代から、すでにのちのルオーの特徴である重黒い輪郭線や真っ赤な色彩が見られる。1891年にパリのエコール・デ・ボザールに入学し、ギュスターヴ・モローのもとで学ぶ。1895年から主要な展示に参加し始める。1905年のサロン・ドートンヌ展に他のフォービスムの作家たちと参加。フォーヴィスム・グループにおいてマティスは理論的な側面を作品に反映していたが、ルオーはもっと本能的で自発的な作風だった。20世紀最大の銅版画家と評されるルオー。その生涯において残された版画は365点。同時代の他作家たちと比べても決して多作とは言えないが、1点たりとも手抜きのない作品制作にかける姿勢、情熱は他を圧倒する。