DETAIL
アルフォンス・マリア・ミュシャ
《秋》
リトグラフ
1896年
32.2×14.5cm
《四季》ショコラ・マッソンより
版上サイン
額・黄袋・箱付き
本作品《秋》は、アール・ヌーヴォーの巨匠アルフォンス・マリア・ミュシャ(Alphonse Maria Mucha, 1860-1939)が1896年に制作したリトグラフ作品で、パリの高級チョコレート店「ショコラ・マッソン(Chocolat Masson)」のためにデザインされた連作《四季》のひとつです。豊穣の象徴である果実を抱く女性像を中心に、秋という季節の豊かさと官能美を華やかに表現しています。
秋の豊穣と官能の象徴
ミュシャは四季を擬人化した連作において、女性像を通して自然の恵みと生命力を描き出しました。《秋》では、果実を抱える女性が豊かな髪をなびかせながら優雅に微笑み、成熟した季節の歓びを体現しています。
彼女の手に抱かれた葡萄や果実は、収穫と祝祭を象徴するモチーフであり、秋の豊饒さを強く印象づけます。
アール・ヌーヴォー様式の特徴
本作では、ミュシャ特有のアール・ヌーヴォー様式が際立っています。
• 曲線美:女性の体のラインや流れる髪、背景の花々が、装飾的で優雅な曲線で統一されています。
• 華やかな装飾性:花と果実をあしらった背景や、グラデーション豊かな色彩が、官能的で幻想的な世界観を構築しています。
• 象徴的な構図:円形の背景と上下に伸びる長方形のフォーマットは、ポスター芸術としての機能美と装飾性を兼ね備えています。
《四季》シリーズとショコラ・マッソン
本作品《秋》は、ショコラ・マッソン社の依頼により制作された連作《四季》の一枚で、春・夏・秋・冬をそれぞれ異なる女性像で表現しています。1890年代のパリでは、ミュシャが手掛けたポスターや装飾的リトグラフが大きな人気を集め、ショコラ・マッソンのような高級商店は、商品の販促用にこうした芸術的なポスターを積極的に採用していました。
そのため、この作品は商業美術とファインアートの境界を越えた、ミュシャ芸術の代表例といえます。
アルフォンス・マリア・ミュシャ Alphonse Maria MUCHA (1860-1939)
1860年チェコ東部のモラヴィア地方に生まれる。ミュシャは幼少期から絵画の才能を発揮していた。アール・ヌーヴォー様式が流行していたパリのベル・エポックの時代、大女優サラ・ベルナール主演の舞台《ジスモンダ》の宣伝ポスターで大センセーションを巻き起こす。以後、ポスターをはじめ装飾パネルなど数々の耽美で幻想的な女性イラストレーションを制作し、アール・ヌーヴォーの巨匠としての地位を確立する。