DETAIL
ポール・ゴーギャン
《河岸の女たち》
木版画
1893-1921年
20.3×35.6cm
ポーラサイン
限定100部
額・黄袋・箱付き
本作品《河岸の女たち》(AUTI TE PAPE)は、ポール・ゴーギャン(Paul Gauguin, 1848-1903)がタヒチ滞在中の1893年に制作した木版画で、《ノアノア木版画集》に収められた10点のうちの1点です。1921年に四男ポーラ・ゴーギャンによって刊行された限定版からの一枚で、タヒチの自然と女性を象徴的に描き出した、シリーズの中でも特に印象的な作品です。
タヒチの大地と女性の象徴
画面左寄りに描かれるのは、河岸に座る裸の女性です。しなやかに曲げられた膝とゆったりとしたポーズは、タヒチ女性の自由な精神と生命力を象徴しています。その背後には水辺に立つもう一人の女性が描かれ、片腕を高く掲げた動きによって画面にリズムと物語性が与えられています。ゴーギャンは、女性を単なる写実的対象としてではなく、タヒチの大地や水と同一化された存在として捉え、原始的な生命の力を象徴的に描き出しています。
木版画ならではの表現
本作では、黒と白のコントラストを強調することで、彫り跡の質感や版木の凹凸を活かした独特の表現が際立っています。水面や大地を示すうねるような模様は、自然のエネルギーを抽象的に描き出しており、ゴーギャン特有の装飾的感覚が顕著です。さらに、人物と背景を等しくフラットに処理することで、西洋絵画的な遠近法から解放された構図となり、タヒチの神話的な世界観を強調しています。
《ノアノア》シリーズにおける位置づけ
《ノアノア木版画集》は、ゴーギャンがタヒチで体験した自然や文化を伝えるために制作された10点からなる連作で、各章に1点ずつ配置される挿絵として構想されました。本作《河岸の女たち》は、シリーズ全体の中でも特にタヒチ女性の存在感と自然との調和を象徴的に描き出しており、ゴーギャンが求めた「原始的で自由な楽園」のイメージを端的に表しています。
ポーラ・ゴーギャン刷りについて
1921年に刊行されたポーラ・ゴーギャン版は、父ポールの原版を忠実に再現することに重点が置かれています。版木の細かな彫り跡やインクのかすれまで丁寧に写し取り、ゴーギャンが追求した表現を可能な限り正確に伝えることを目指した、高い完成度を誇る刷りとなっています。
ポール・ゴーギャン Paul GAUGUIN (1848-1903)
パリに生まれる。最初は海運業に従事し、後に銀行家として働くようになったが、絵画への情熱を捨てきれず、やがて芸術家としての道を選んだ。当初、印象派の影響を受けた作品を制作していたが、後に独自のスタイルを追求するようになった。1880年代に南フランスで絵画を制作し、その後、1888年に友人のフィンセント・ファン・ゴッホと共にアルルに移住した。しかし2人の関係は次第に悪化し、ゴーギャンはタヒチへの旅を計画した。1891年にゴーギャンはタヒチに到着し、そこでの生活が彼の作品に大きな影響を与えた。ゴーギャンは貧困と健康問題に苦しむ中で孤独な最後の年月を過ごし、1903年にフランスで死去した。彼の死後、作品は再評価され現代の芸術に多大な影響を与えた。