DETAIL
パブロ・ピカソ
《女と犬男、花を持つ女》
エッチング・ドライポイント・アクアチント
1972年
36.6×49.2cm
《156シリーズ》より
限定50部
スタンプサイン
額・黄袋・箱付き
本作品《女と犬男、花を持つ女》は、ピカソ晩年の代表的版画集 《156シリーズ(Suite 156)》 の中の一枚で、1972年に制作された作品です。90歳を迎えようとしていたピカソが、なお衰えることのない創造力を発揮し、自由奔放な線描と実験的な構図によって、人間の欲望・関係性・感情を複雑に描き出した力作です。
《156シリーズ》の中での位置づけ
《156シリーズ》(1968〜1972年制作)は、ピカソが晩年に取り組んだ全156点の大規模版画集で、芸術家とモデルの関係、愛、エロティシズム、神話的要素など多様なテーマが織り込まれています。本作はその中でも人間の感情と肉体表現を大胆に描いた一枚で、晩年のピカソが到達した自由な表現を象徴しています。
構図とモチーフ
画面左側には、犬のような形態を思わせる男性像が描かれ、右側には裸体の女性像と「花を持つ女」が配置されています。
• 犬男(左):動物的な欲望や本能を象徴する存在
• 裸体の女(右中央):渦を巻くような線で胸部が描かれ、女性性の象徴を強調
• 花を持つ女(右上):官能と精神性の対比として配置され、象徴的なアクセントを与えています
複雑に交錯する線と形態は、人物間の緊張関係や欲望の揺らぎを視覚的に表現しています。
技法と表現
本作では、エッチング・ドライポイント・アクアチントという3つの版画技法を駆使し、異なる質感と線の強弱を巧みに組み合わせています。
• エッチング:自由な線描で動きとリズムを強調
• ドライポイント:針の直接的な刻みによる鋭い輪郭と、インクのにじみによる官能的な深み
• アクアチント:陰影と面の表情を豊かにし、画面に複層的な奥行きを与えています
モノクロームでありながら、多彩な質感の対比によってドラマチックな効果が生まれています。
芸術的特徴
• 晩年ピカソ特有の奔放な線描と抽象的フォルム
• 人間の欲望と愛、精神性の交錯を象徴的に表現
• 複数技法の融合による豊かな質感と強い造形力
• 《156シリーズ》終盤ならではの、即興性と内省性が同居する世界観
まとめ
《女と犬男、花を持つ女》は、ピカソが晩年に制作した《156シリーズ》の中でも、官能性と象徴性が際立つ一枚です。自由で躍動的な線と複雑なモチーフの配置により、人間の内面と関係性を多層的に描き出しており、90歳を迎えるピカソの創造力の到達点を示しています。
パブロ・ピカソ Pablo Picasso (1881-1973)
スペインのマラガに生まれる。絵画だけでなく彫刻や版画、陶芸、舞台芸術、詩人としてなど幅広く活動。「キュビスム」という新しい美術表現を創造し、20世紀最大の画家と評される。代表作は《アヴィニョンの娘たち》《ゲルニカ》《泣く女》など。その生涯で制作した作品は13,500点の油絵と素描、10万点の版画、34,000点の挿絵、300点の彫刻や陶器など、その数は約15万点。世界で最も多作な美術家であるとギネスブックに認定されている。