DETAIL
マルク・シャガール
《エッフェル塔とロバ》
リトグラフ
1954年
38×28cm
《パリ・シリーズ》より
直筆サイン
額・黄袋・箱付き
本作品は、シャガールが1950年代に制作した『パリ・シリーズ』の一点であり、彼が愛した都市パリを象徴的に描き出したオリジナルリトグラフです。モチーフとなっているのは、エッフェル塔というフランス文化の象徴と、シャガール作品に繰り返し登場するロバ(あるいは馬)という寓意的な動物です。幻想的で夢のような構図によって、パリという都市の輝きと、詩的でユーモラスな世界観が見事に表現されています。
構図とモチーフ
画面中央には、鮮やかな赤で描かれたロバが花を抱えるように立ち現れます。このロバは、シャガールが幼少期を過ごしたヴィテブスクの農村風景を想起させる存在であり、彼の郷愁や夢想の象徴とされています。背景には、黄色とオレンジに輝くエッフェル塔がそびえ立ち、月や鳥、果実など、シャガール特有の浮遊するモチーフが配置されています。これらは、現実と夢、都市と自然、個人の記憶と普遍的な象徴が入り混じる、シャガール独自の世界観を形作っています。
技法と色彩
リトグラフによる豊かな発色は、シャガールならではの鮮烈な色彩感覚を見事に伝えています。特に赤いロバの強烈な存在感と、エッフェル塔の輝くような色彩の対比は、観る者に強い印象を与えます。シャガールはリトグラフの巨匠フェルナン・ムルロ工房と緊密に協力し、手描きに近い即興性を版画に再現することに成功しました。この作品でもその成果が表れており、自由で奔放な線描と鮮やかな色彩が、夢のような幻想空間を生み出しています。
コレクション的価値
『エッフェル塔とロバ』は、『パリ・シリーズ』の中でも特に人気の高い作品のひとつです。
⚫︎パリを象徴するエッフェル塔と、シャガール独自の寓話的モチーフであるロバが共演する構図
⚫︎シャガール本人が制作したオリジナルリトグラフであり、さらに直筆サイン入りで、少数に限定された部数であるという希少性
⚫︎シャガールの色彩感覚が最も冴え渡った1950年代の作品であること
これらの点から、コレクターにとって魅力的な一枚であり、パリを愛する人々やシャガール愛好家にとって特別な意味を持つ作品といえるでしょう。
マルク・シャガール Marc CHAGALL (1887-1985)
帝政ロシア(現ベラルーシ)のヴィテブスクに生まれる。1907年ペテルブルク(現サンクト・ペテルブルク)の王立美術学校で学び、そこでの経験が彼の芸術に深い影響を与えた。1911年、シャガールは「蜂の巣」と呼ばれるアトリエに移り、そこでロベール・ドロネー、フェルナン・レジェ、モディリアーニなどの画家たちと交流した。この時期に彼の独自の絵画スタイルが花開き、色鮮やかで幻想的な要素が取り入れられた。1963年、パリ・オペラ座の天井画を制作。1977年にはレジオン・ド・ヌール最高勲章を授与された。1985年ヴァンスで死去。シャガールの作品は、空中を浮遊する恋人たちや故郷の素朴な風景など、独自の幻想的な要素が取り入れられ、国際的に高い評価を受けた。彼の油彩画、版画、挿絵などは、美術ファンを魅了し続け、その芸術は時代を超えて多くの人々に感動を与え続けている。