ジョアン・ミロ
《オリジナル・リトグラフ 11》
リトグラフ
1974年
32×25cm
《ジョアン・ミロ リトグラフ �供佞茲�
作品全体の印象
本作《オリジナル・リトグラフ 11》は、1974年というミロ晩年に近い時期の制作でありながら、驚くほどの瑞々しさと遊び心を保った一枚です。画面中央に大きく配された有機的なフォルムは動物とも精霊とも取れる存在感を持ち、鑑賞者に一瞬の戸惑いとすぐ後に訪れる親しみやすさを同時に与えます。
形と線が生むリズム
太く粗い黒の線は、輪郭を定めるというよりも形を揺らがせ、画面全体に独特のリズムを与えています。丸みを帯びた青や赤、緑の色面は均整が取れているようでいて完全には揃わず、その不完全さがむしろ生命感を強めています。
線が震えるように引かれていることで、静止した版画でありながら動きを感じさせる点が印象的です。
色彩が語るミロの世界
青は静けさと深さを、赤は強い生命の鼓動を、緑は自然や成長を象徴するように配置されており、それぞれが独立しながらも全体として一つの存在を形作っています。
ミロ特有の原色使いはここでも健在で、色そのものが意味を持つ記号として機能していることが感じられます。
晩年のミロらしさ
1970年代のミロ作品には、若い頃の実験精神と同時に、長年の制作を経て到達した簡潔さと自由さが共存しています。本作もまた、描き込むことよりも削ぎ落とすことで本質に迫ろうとする姿勢が明確で、見る側に解釈の余白を大きく残しています。そのため、飾る場所や見る人の感性によって印象が変わり、長く付き合える作品と言えるでしょう。
コレクションとしての魅力
本作はジョアン・ミロのリトグラフ作品を網羅的に収録した総図録（カタログ・レゾネ）第2巻に掲載されている一点であり、資料的価値と信頼性の両面を備えています。
32×25cmという扱いやすいサイズ感も魅力で、初めてミロ作品をコレクションされる方から、既に複数点お持ちの方まで幅広くおすすめできる一作です。
ジョアン・ミロ Joan MIRÓ (1893-1983)
1893年スペイン・バルセロナに生まれる。7歳で絵を描き始め、1907年にラ・ロンハ・デ・ラ・セダ美術学校に入学。初期作品は、バルセロナで開催されていたフィンセント・ファン・ゴッホやポール・セザンヌ、フォーヴィスムやキュビスムの影響が色濃かった。多くの学者はこの頃のミロを「カタルーニャ・フォーヴィスム時代」と位置づけている。
1924年のシュルレアリスムグループに参加。記号的で詩的で自然的で、また矛盾性や二重性に満ちたミロの夢のような作品群は、シュルレアリストたちから夢のようなオートマティスムとして扱われる。この時代に制作された作品群は最終的に『夢の絵画』と呼ばれるようになった。1928年になると、『オランダの室内』シリーズが始まる。
1937年のパリ万国博覧会におけるスペイン共和国ブースで、ミロは政府から壁画制作の依頼を受け『刈り入れ』を制作。1939年、フランスにドイツ軍が迫るとノルマンディーのヴァレンジュヴィルへ転居した。1940年から1941年にかけてヴァレンジュヴィル、パルマ島、モンロチ間を移動しながら、20〜30点の『星座』シリーズを制作する。
1948〜49年にミロはバルセロナに住みながら、定期的にパリに訪れてムルロー工房やラクリエール版画工房で版画を制作。特にフェルナン・ムルローとの仲は深く、1000点以上の版画作品を制作した。1983年パルマで死去する。
