ジョアン・ミロ
《オリジナル・リトグラフ 1》
リトグラフ
1972年
32×25cm
《ジョアン・ミロ リトグラフ �機佞茲�
作品の位置づけ ― 「総図録掲載作品」という特別な意味
本作《オリジナル・リトグラフ 1》は、ジョアン・ミロのリトグラフ作品の総図録（カタログ・レゾネ）に収録された、わずか11点のオリジナル・リトグラフのうちの一点です。
カタログ・レゾネとは、単なる作品一覧ではなく、作家自身の制作の正統性を保証する“最終的な基準”とも言える存在です。
画面構成 ― 宙に浮かぶ記号の世界
画面中央に大きく配された、鋭く伸びる青い星形は、本作の視覚的な核となっています。
ミロにとって星は、宇宙・精神・詩的想像力を象徴する最も重要なモチーフの一つです。
星の周囲には、
• 浮遊するような有機的な形態
• 昆虫や鳥を思わせる抽象的存在
• 点・線・しぶきとして配置された色彩
が散りばめられ、画面全体が重力から解放された宇宙空間のような構造を持っています。
これらは物語を語るのではなく、見る者の感覚と想像力に直接作用する記号として存在しています。
色彩 ― 原色と余白の緊張関係
ミロらしい赤・青・黄・緑の原色が、白地を生かした画面に軽やかに配置されています。
特に背景の白は、単なる余白ではなく、色彩と記号を浮かび上がらせるための積極的な構成要素として機能しています。
飛沫のように散る赤のスプラッシュは、偶然性とリズムを画面にもたらし、厳密に計算された構図の中に、即興性と自由さを同時に感じさせます。
この「計算された自由」こそが、ミロ芸術の本質の一つです。
線描 ― 子どもの線ではなく、到達点としての単純化
一見すると、本作の線は子どもの落書きのように見えるかもしれません。
しかし、ミロ自身が語っているように、彼は「子どものように描くために一生を費やした」画家です。
本作に見られる線は、
• 無駄をすべて削ぎ落とした結果としての線
• 描くことと考えることが完全に一致した線
であり、単純化の果てに到達した高度な表現です。
この線は、即興的でありながら、決して偶然任せではありません。
オリジナル・リトグラフとしての価値
本作は、ミロ本人が直接原版を制作した真正のオリジナル・リトグラフです。
単なる複製や工房主導の版画とは異なり、石版の上でミロの感覚そのものが形になっています。
さらに、
• 総図録に収録
• わずか11点のみ選ばれたオリジナル作品群の一作
という点は、コレクション価値の面でも非常に重要です。
ミロ芸術のエッセンスが凝縮された一枚
《オリジナル・リトグラフ 1》は、装飾的な美しさを超え、ミロの思考、詩、宇宙観が最小限の形で凝縮された作品です。
理解しようとするよりも、感じ取ることで真価が立ち上がる――まさにミロ芸術の核心に触れる一枚と言えるでしょう。
カタログ・レゾネ収録作品としての信頼性、オリジナル・リトグラフとしての純度、そしてミロらしさの明確さ。
いずれの点においても、コレクターにとって非常に完成度の高い作品です。
ジョアン・ミロ Joan MIRÓ (1893-1983)
1893年スペイン・バルセロナに生まれる。7歳で絵を描き始め、1907年にラ・ロンハ・デ・ラ・セダ美術学校に入学。初期作品は、バルセロナで開催されていたフィンセント・ファン・ゴッホやポール・セザンヌ、フォーヴィスムやキュビスムの影響が色濃かった。多くの学者はこの頃のミロを「カタルーニャ・フォーヴィスム時代」と位置づけている。
1924年のシュルレアリスムグループに参加。記号的で詩的で自然的で、また矛盾性や二重性に満ちたミロの夢のような作品群は、シュルレアリストたちから夢のようなオートマティスムとして扱われる。この時代に制作された作品群は最終的に『夢の絵画』と呼ばれるようになった。1928年になると、『オランダの室内』シリーズが始まる。
1937年のパリ万国博覧会におけるスペイン共和国ブースで、ミロは政府から壁画制作の依頼を受け『刈り入れ』を制作。1939年、フランスにドイツ軍が迫るとノルマンディーのヴァレンジュヴィルへ転居した。1940年から1941年にかけてヴァレンジュヴィル、パルマ島、モンロチ間を移動しながら、20〜30点の『星座』シリーズを制作する。
1948〜49年にミロはバルセロナに住みながら、定期的にパリに訪れてムルロー工房やラクリエール版画工房で版画を制作。特にフェルナン・ムルローとの仲は深く、1000点以上の版画作品を制作した。1983年パルマで死去する。
