ジョアン・ミロ
《オリジナル・リトグラフ 8》
リトグラフ
1972年
32×50cm
《ジョアン・ミロ リトグラフ �機佞茲�
額・黄袋・箱付き
作品について
本作《オリジナル・リトグラフ 8》は、1972年に制作されたジョアン・ミロ晩年のリトグラフ作品であり、ミロの版画作品を体系的に整理した総図録（カタログ・レゾネ）に収録された11点のオリジナルリトグラフのうちの一点です。カタログ・レゾネ掲載作であることは、作品の来歴と真贋が明確であることを示しており、学術的にも市場的にも高い評価基準を満たしています。
画面構成と造形
本作では、画面全体を横断する力強い黒のフォルムが、まるで生き物が連なりながら行進しているかのような構成を形づくっています。太く大胆な黒の輪郭線に対して、赤、青、緑、黄色の色彩がリズミカルに配置され、単なる装飾ではなく、動きと方向性を示す視覚的なアクセントとして機能しています。
左右に広がる構図は、横長サイズを最大限に活かしたもので、観る者の視線を自然に画面全体へと導きます。
作品から感じられる世界観
本作からは、ミロが生涯追求し続けた「原始的な生命のイメージ」と「遊戯性」が強く感じられます。黒い形象は動物のようにも、人間の影のようにも、あるいは抽象的な記号の連なりのようにも見え、見る角度や心情によって姿を変えます。散布されたスプレー状の色彩は、空気や宇宙の気配を想起させ、画面に偶然性と詩的な余白を与えています。
技法と晩年ミロの特徴
本作はミロ自身が原版制作に深く関与したオリジナルリトグラフであり、線の強弱やインクの滲み、スプレーによる粒子感には、作家の身体的な動きと即興性が色濃く反映されています。1970年代のミロは、形を削ぎ落としながらも表現の自由度を極限まで高めており、本作はその到達点を示す一例と言えます。
単純化された造形の中に、長年培われた構成力と感覚の鋭さが凝縮されています。
コレクションとしての価値
1972年制作の円熟期作品であり、かつカタログ・レゾネ掲載のオリジナルリトグラフ11点のうちの一点という明確な位置づけを持つ本作は、コレクションとして非常に魅力的です。32×50cmというサイズは壁面での存在感も十分で、ミロ特有のユーモアと現代性を空間に強く印象づけます。
ミロの抽象表現と晩年の精神性を同時に味わえる作品として、長く手元に置く価値のある一作です。
ジョアン・ミロ Joan MIRÓ (1893-1983)
1893年スペイン・バルセロナに生まれる。7歳で絵を描き始め、1907年にラ・ロンハ・デ・ラ・セダ美術学校に入学。初期作品は、バルセロナで開催されていたフィンセント・ファン・ゴッホやポール・セザンヌ、フォーヴィスムやキュビスムの影響が色濃かった。多くの学者はこの頃のミロを「カタルーニャ・フォーヴィスム時代」と位置づけている。
1924年のシュルレアリスムグループに参加。記号的で詩的で自然的で、また矛盾性や二重性に満ちたミロの夢のような作品群は、シュルレアリストたちから夢のようなオートマティスムとして扱われる。この時代に制作された作品群は最終的に『夢の絵画』と呼ばれるようになった。1928年になると、『オランダの室内』シリーズが始まる。
1937年のパリ万国博覧会におけるスペイン共和国ブースで、ミロは政府から壁画制作の依頼を受け『刈り入れ』を制作。1939年、フランスにドイツ軍が迫るとノルマンディーのヴァレンジュヴィルへ転居した。1940年から1941年にかけてヴァレンジュヴィル、パルマ島、モンロチ間を移動しながら、20〜30点の『星座』シリーズを制作する。
1948〜49年にミロはバルセロナに住みながら、定期的にパリに訪れてムルロー工房やラクリエール版画工房で版画を制作。特にフェルナン・ムルローとの仲は深く、1000点以上の版画作品を制作した。1983年パルマで死去する。
